「虫を敵としない暮らしづくり」お話会を開催しました
このたび講師の先生方をお招きし、
野あそび工房主催のお話会を開催しました。
テーマは「虫を敵としない暮らしづくり」。
※以下長文になりました。
お時間のあるときにご覧いただけたらうれしいです。
虫を害虫として駆除したりするけれど、そもそも害虫とか益虫とか、その区別ってなんだろうと。そんなことを私が考えるきっかけになったのは、日本みつばちとの出会いでした。
みつばちの世界に足を踏み入れてから 早7年。 社会性昆虫であるみつばちの生態は本当に面白く、驚きと感動の連続で、自然とその世界に引き込まれていきました。
日本みつばちを飼育するようになってから変化したこと。それは、みつばち目線で自分の周りの環境を意識するようになったことです。
みつばちたちは巣箱から半径2、3キロ圏内が行動範囲で、巣門を飛び立ってさまざまな方向へ向かっていきます。
そんな姿を目で追いながら、みつばちたちはどこへ飛んでいっているんだろう。どんな花を訪れているんだろうと 自然と、みつばちたちの行く先に想いを馳せるようになりました。
私の住んでいる地域は果樹畑がたくさんあり、農薬散布が頻繁です。 もわっと白いものが吹き上がる様子が窓の外に見えるたびに、みつばちたちは大丈夫だろうかと心配な気持ちになります。
みつばちは炭鉱のカナリア的な存在。みつばちが元気に暮らせる環境は、私たち人間が健康的に暮らせる環境といえます。
だから、今まで元気だったみつばちが、畑の土の上をよろよろと歩いていたり、巣箱のそばで死んでいたりする姿を見るたびに、農薬ってなんで必要なんだろうと、深く考えるようになりました。
また、みつばちにはたくさんの敵がいることを知りました。ツバメもカマキリも、クモもヤモリも、巣箱の近くにやってきて、みつばちを狙っています。また、みつばちの巣箱にはびこるハチノスツヅリガなどの幼虫スムシは、みつばちの逃居の原因にもなることから、見つけるたびにつまみ出します。また巣箱の近くをホバリングして襲ってくるスズメバチもかなりの強敵で、養蜂家にとってスズメバチは悩みの種です。
送紛者として植物の実りの手助けをし、また、私たち人間にはちみつや蜜ろうを提供してくれるみつばちは、誰もが認める益虫ですから、そのみつばちを捕食したり、害を与える虫は害虫と普通なら考えます。
ところが、なのです。
実はスムシは自然界では必要な存在で、木のうろなどの自然巣で古い巣をスムシが掃除をしてくれることによって片付いて、そこに新しいみつばちたちが営巣できるようになります。近所にあった紅葉の木のうろの自然巣を観察しながら、そんなことを知りました。
また、スズメバチもさまざまな虫を捕食し、生態系のバランスを保つ存在であり、日本みつばちの競合相手の西洋みつばちの個体数を減らしてくれるという意味で、間接的には日本みつばちの味方という見方もできるいうことを知りました。
さらに、面白いことに みつばちの群れに勢いがあって健全な状態では スズメバチもあまり襲ってこないし、スムシの害も少ないということを、複数群飼育するようになって初めて知りました。人間が免疫力を高めれば病気にかかりにくくなるのと同じように、みつばちも群れを健全な状態にすれば、敵の攻撃を受けにくくなるのです。
本来、虫にはいいも悪いもなくて、ただそこに存在するだけ。みんながみんなそれぞれにこの自然界で大切な役割を持ちながら、それぞれの命を生きている。
虫がそこにやってくるとしたら、その虫がそこで果たすべき役割があるから。
善悪のものさしは、私たち人間の都合なだけなんだなあと、
そんなことに気づかせてもらえたのは、
みつばちのおかげでもあり
また、みつばちを通して知り合えた方々や、本のおかげでもあります。
なかでも、私が大きな影響を受けたのが
御園孝さんの
「ミツバチを飼う人のために 生態系の王者-オオスズメバチ」
小川幸夫さんの
「農薬に頼らずつくる 虫といっしょに家庭菜園」
この2冊でした。
実は今回のお話会の講師の先生としてお招きしたのが、まさにこの2冊の本の著者で、
お二人の自然観、生き物に対する温かい眼差しにとても心惹かれた私にとっては 夢のコラボレーション企画。自分が参加したいという気持ち一心でいつの間に主催者になっていました。
お二人まとめての講演だなんてもったないほどの贅沢すぎるお話会で、本当はたくさんの方々に聞きにいらしていただきたかったのですが、コロナ渦ゆえ残念ながら人数を制限せざるを得ませんでした。
それでも、ご参加いただいたみなさん、とてもいいお話会だったと喜んでくださり、また「ここでの小さな波紋がどんどん広がっていってくれるといいですね」といううれしい感想もいただきました。
実体験に基づくお話の数々はどれも引き込まれるものばかりで、3時間という時間があっという間に過ぎ去ってしまい、もっとたくさんお話を聞いていたかったですという声がたくさんありました。
内容については、わたなべあきひこさんのレポートが秀逸ですので、以下にご紹介します。あきひこさんは北杜市にお住まいで、ご家族で自給自足の素敵な暮らしをされています。「虫草農園」とご自分の農園を命名されたほど、虫が大好きなあきひこさんならではの視点です。
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御園さん、小川さん、そして司会進行のとうまさん、ありがとうございました。
素晴らしいお話会、であると同時に、私にとってはとても影響力の大きな素敵な講演会でした。
小笠原や対馬でなぜ、その地域の固有種(主に植物)が失われてしまっているのか? 生態系の番人としてのオオスズメバチの役割、あるいは地域の固有種が絶滅に瀕している状況では、個々の種ではなく、その地域のことを生態系として見る視点が必要なこと、オボロゲながら感じていたものの、具体例を元に話してくださったのでとても納得できました。
さらには、トウヨウミツバチの北限域の調査の話。最低気温がマイナス40度にもなるビキン川地域にも熱帯系と言われるトウヨウミツバチが棲んでいるとは思いもしませんでした。
ドイツではスズメバチの巣を除去してしまうとそれは法律違反で、日本円にして650万円罰金が課せられるというお話も圧巻でした。しかも巣の移動を役所に依頼すると10万円という高額を請求され、仕方なしに多くの人はスズメバチの巣をそのまま放置することを選択し、それによってスズメバチがそれほど危険な存在ではないということを認識していくというプロセス、視聴率稼ぎのためか日本のテレビではスズメバチの危険性ばかりを煽ってしまっていて、スズメバチのことをもっとしっかり知る取り組みがいまとても必要だと感じました。
そして小川さんのお話、虫草農園の用務員の私としては、こちらもとても興味深かった……。
どうしたらこの日本に、農薬を使わない農業を根付かせることができるか? それには各農家に一群のニホンミツバチを飼ってもらうというのがいいのではないか? というアイデア、良かったなぁ。
実際には、群れのミツバチが死に絶えてしまってもそれにそれほど感慨を覚えない人がいたりする一方で、それまでは慣行農法だったので、小川さんが手作業での草取りをしているすぐ近くで除草剤を蒔いていたりしたのに、小川さんがミツバチを飼いはじめてからは巣門を出入りするハチをじっと観察していたり、ミツバチの魅力に取りつかれ農法までもがまるで変わってしまったという小川さんのお父様のお話、胸にジーンと来ました。
オオカマキリが卵を生みやすいように、ローズマリーやシソ、モロヘイヤなどを育てているという話も、興味深かったです。(虫草農園は寒冷地にあるので路地ではローズマリーは育たないのですが)たしかにシソやモロヘイヤに付くオオカマキリの卵のうを多く見慣れているので、今後は虫草農園でも、シソやモロヘイヤの残渣を秋まで残しておくようにしようと思いました。
そうそう、虫だけでなくカエルにも助けてもらっている「ファーム小川」のカエルの話も素晴らしかった! このところは夜な夜な「ファーム小川」のビオトープに集まってくるヒキガエルが交通事故に合わないように、近くの道路を怪しく巡回しているとのこと。
低い位置の大物を食べてくれるヒキガエル、中位置の中ものを食べるアカガエルやダルマガエル系、そして野菜などの上に登って野菜に付く虫たちを食べてくれるアマガエルやアオガエルたち、それぞれの種のための池が設えられていて、虫だけでなくカエルにも多様性が必要で、それによってハウスの中のような限られた空間でも殺虫剤や殺菌剤を使用しなくてもやっていけるとのことでした。たまたま、カエルの生態研究が専門のノブコさんが隣にいて、小川さんの話に大きく頷いていました。
ああ、楽しかった!
興奮冷めやらぬ中、後ろ髪を引かれる思いで、会場の丸山パン(山梨市)を出て、久しぶりに味わう甲府の渋滞を楽しんでいたら(八ヶ岳界隈から外に出たのはひょっとすると一年以上ぶりかも)、電動軽トラの電池がなくなり、なんとか須玉の市役所までたどり着いたら、コロナ禍なので開庁時間外は充電器の開放を辞めているとのこと。万事休す、だったのですが、宿直の方に交渉してなんとか15分だけ給電させてもらい、どうにか家までたどり着くことができたのでした。
末筆ながら、御園さん、小川さん、とうまさん、それにお話会の準備をしてくれた「野遊び工房」のスタッフのみなさん、会場を提供してくれた丸山パンさん、素晴らしいお話会をありがとうございました!
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また、今回のお話会に寄せて、講師の先生方をよく知るお仲間が、それぞれとても素敵な紹介文を書いてくださいましたので最後に紹介いたします。
御園さんには、みつばち仲間の野﨑かおるさんがコメントを下さいました。
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本職は植木屋さんらしい?ですが、花々や樹木のことは何を聞いても生き字引以上の植木職人! とにかく愛情をもって答えてくれます。 有機無農薬のお米を35年にも渡って作り続け、 早くから、ネオニコチノイド系農薬に警鐘を鳴らし、 制作に関わった 「ミツバチからのメッセージ」というDVDの上演やお話会でミツバチ・生態系・人間との繋がりを人々に伝えるため全国を飛び回っていました。 丁寧な仕事ぶりから年々仕事量が増える中、忙しい合間を縫って長年続けている地道なミツバチの保護活動においても手を抜くことなく、理解ある仲間を増やし続けています。 また、自然の大切さを優しく伝える絵本作家という顔も持ち、その他、訪れた南アルプスで見た花々や巣箱、化石採りやブータンののどかな風景など写真満載の自費出版本は数多くあります。 とにかく噛めば噛むほど味わい深い御園氏です。 私にとって御園さんは、分かち合う仲間かな!(^^)! 」
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さすが、御園さんとのお付き合いの長い野﨑さん。御園さんのことを本当によく理解しておられるなあというコメントで、御園さんへの温かい友情を感じました。「噛めば噛むほど味わい深い」という その形容の言葉の意味が、今回ご一緒させていただいてよく分かりました。経験豊富な御園さんだからこその、次々と飛び出すお話はどれも面白くて、またその温かいお人柄ゆえに御園さんには自然と素敵なお仲間が集まるのだろうなと感じました。
そして
小川さんには、「虫といっしょに家庭菜園」の取材と文を担当した腰本文子さんからコメントをいただきました。
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「アブラムシのいない畑に未来はない」という逆説的な表現を使ったように、「害虫」という虫はいない。そこに居る、そこに来る、あらゆる虫が畑の生態系を健やかに保つのに必要な役割を果たしている。そういう考えに基づいて野菜づくりに取り組んでいらっしゃる小川さんの姿勢が、とても素敵だなと思っています。ある種、哲学的です。ムシキングなんて呼ぶ人もいるみたいですが、個人的には「畑の哲学者」と呼ばせてもらいたい方です。
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腰本さんは、この本の取材のために小川さんの農園に一年間足を運び続けたそうです。小川さん、とても素敵な方ですよとの、腰本さんのお言葉のとおり、やさしさにあふれた本当に素敵な方でした。実は腰本さんのみならず、小川さんをご存知の方はみなさん口をそろえて、小川さんは素敵な人ですよ!とおっしゃるのですが、その意味もよく分かりました。また、小川さんは既存の情報や価値観にとらわれず、あくまでもご自分の体験、観察したことをもとに考察されていて、その観察眼の鋭さにも感動しました。
御園さん、小川さん、本当にありがとうございました。
また、お話会にご参加くださったみなさまにも心より感謝いたします。
質疑応答の時間が足りなかっただろうなあと思うほどに、小学生のお子さんも含めみなさん熱心にご参加くださり、とても有意義な会になりました。
そして、最後に
古民家の心地よい空間を提供してくださった丸山パンさんにも感謝申し上げます。
みなさま本当にありがとうございました。
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